これってきれい?
こんにちは、覆面歯科医です。
前回は歯科における無資格の医療行為についてお話させていただきました。
違った方向で工夫をしてしまう歯医者さんのお話でしたが今回も同じように歯医者さんの間違った工夫の一つをお話します。
今回は歯医者さんの衛生面、安全面についてのお話です。
ホケン物語 第5章 ちゃんと洗ってください
ある小さな貧しい国で始まったホケンという制度。
この国では決められた内容のお食事を決められた料金で提供し、一部を国が負担することで国民の誰もが食べることに困らないようになりました。
お店もさまざまな努力をして限られた条件の中でよりよい食事を提供しようと頑張っています。
昔からある定食屋さんでのお話です。
そのお店はおかみさん一人で切り盛りしていて、馴染みの常連さんが多く来るお店です。
お客さんは親しみを込めて
「ここのお店は古くて汚いけど、おかあさんの料理は昔から変わらずで、おふくろの味ってやつだね。
やっぱりこの店が一番だな。」
なんて話したりしています。
ある日、仕事でふとこの町に来た若い男性が仕事の途中に昼食を食べにこのお店に入りました。
「カレーライス一つください。」
「はいカレーライス、お待ちどうさま。」
「ん?」
出してもらったスプーンに少し汚れがついていたので男性は
「すみません、スプーンに汚れがあったので新しいものに変えていただけますか?」
「はいはい、ごめんね」
変えてもらったスプーンにも汚れがついていました。
「すみません、こちらも少し汚れているのですが…。」
「あら、ごめんね。今拭くね。」
と、腰につけていたエプロンでスプーンをキュッキュッと拭いて
「はい、どうぞ。」
と渡されました。
男性があっけにとられていると、常連のお客さんから
「兄ちゃんそんなの気にしとらんで、カレー食べてみ。うまいぞ!」
「はあ、でも…。」
「ここはおかあさん一人で切り盛りしてるんだから、そのくらいは大目に見なきゃ。」
「すみません、お会計ここに置いておきます。」
男性は代金をテーブルに置くと食事はせずにお店を出ていきました。
「あーあ、もったいない。
あれだね、最近の若いもんはケッペキっていうのか、なんだかねー。」
このお店ではおかみさん一人でお店を回すため、お店が終わった後にまとめて食器を洗い、お店が開いている間はさっと水洗いをして食器を使いまわしているのでした。
この国はホケンが始まったころとは随分変わりました。
この国は今後どうなっていくのでしょう。
続く
あとがき
皆さんは今回の物語はどう受け取りましたか。
「いやいや、汚いし、男性のとった行動は当然でしょ。」
「潔癖すぎじゃない?」
人それぞれかと思います。
物語では食器を洗わずに使い回すという内容で『きたねー』、『ふけつー』という衛生面の問題で済ますこともできますが、歯科医療の場合は単に「汚い」、「不潔」だけでは済まされない問題があります。
それは病気の感染です。
今回は歯科医院における衛生面・院内感染といった医療安全についてお伝えしたいと思います。
歯科治療に関連する病気の感染
歯科医師や歯科衛生士は治療で患者さんの口の中を触ります。
口の中には唾液があり、また歯ぐきなどからの出血により血液に触れることも多くあります。
ウイルスや菌が原因となって起こる感染症(ウイルス肝炎やヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症、そしてむし歯や歯周病も菌によって感染する病気として含まれます。)がありますがその原因のウイルス、菌(細菌)は口の中の唾液や血液の中にも存在します。
感染の原因となるウイルス、菌に触れた手や器具で他の人の口の中に触れることでそのウイルスや菌が感染し、それによって病気を発症することがあります。
歯科治療においては単に『汚い』、『不潔』ということだけの問題ではなく、『健康を害する』という問題にも発展するのです。
歯科医院での感染リスクの実態
残念ながら一般歯科医院では『すべての医院において』という点ではまだまだこの感染への対応が不十分であると言えます。
というのもウイルスや菌は汚れと違い、洗っただけでは落としてなくすことはできないのです。
手も洗っただけでは不十分、器具もしっかり洗っただけでは不十分なのです。
例えば、治療で使うグローブ(ゴム手袋)は患者さん一人に対して1組、使い捨て。
口の中に入れる器具は一回ずつ洗浄・消毒・滅菌(ウイルスや細菌を完全に死滅させて除去する方法)を行う。
滅菌は時間がかかるため、その間に使う器具を準備すると同じ器具を多く持っている必要がある。
歯科医療で行う滅菌の方法は高温、高圧で行うため、プラスチックやビニールなどの材料には行えない。そのためそれらは使い捨てのものとする。
といったように手間とお金がかかります。
これにより、手間とお金を節約することを優先すると感染への対応が不十分となってしまうのです。
たとえば2014年、2017年に読売新聞で「タービン(歯を削る際に使用する機械)の使い回し」について取の記事がありましたが、2014年の記事では一般歯科医院の約7割が使い回しているとし、2017年でもまだ約5割が使い回しているという内容でした。
これを受けて日本の歯科保険治療も2018年4月から口の中で使用する医療機器について適切な方法で滅菌した器具を患者ごとに交換するという医院に対しては歯科報酬点数を増やすなどの対応をしましたが講習を受けて申請すれば認められるので実際に行っているかという点からは確実に行っていることを裏付けるものではないと言えます。
医療機器の使い回しにあわないためのポイント
・院内や医院のホームページで「滅菌」などについての明記があるか
「この医院では衛生管理をしっかりしています」、「医療機器の使い回しはしていません」などを明記していることはまず治療前でも確認できるので、本当にやっているかどうかは別として、そういう意識はあるんだなという確認はできます。
・グローブ(ゴム手袋)は目の前で新しいものをつけているか
医院によっては歯科医師が同じ時間帯に複数の患者さんを同時進行で処置を行っていたりすることもあると思いますが、グローブをしたまま現れ、グローブをしてその場を離れるといったことは他の患者さんも含め同じグローブを使い回している可能性があります。
ちなみにグローブをしたまま手を洗っている、アルコールで消毒をしている、これは汚れを落としているだけでウイルスや菌に対しては効果はありません。
・器具などが封を切っていない袋から出てきているか
まずは治療するイスへ通されたとき、すでに歯を削る機械などがセットしてあったらまず使い回していると考えて良いです。
最も確実なのは封をした袋から出てきたら滅菌されていると考えて良いでしょうが、袋に入れずに滅菌を行うこともあるので見分けは難しいとも言えます。
そしてこれらは程度の問題で厳密な管理を求めると大病院での全身麻酔手術を行う手術室のようなレベルのお話になってくるのでそれを求めることは現実的には不可能です。
その医院が
「どうせ100点はできないんだから90点も30点も同じだろ」
という考えなのか、
「100点にはできないけど定められた基準は満たしてより高得点を目指す」
という考えなのか、
これが歯科医院によって変わってくるところかと思います。
細かい部分は非常に複雑でみなさんが知るには難しすぎてしまうのでまずは簡単に見てわかるところで判断できればと上の項目を3つあげました。
まとめ
今回の話題も前回に引き続き、いい歯医者さんを探すにあたって、[治療]、[サービス]、[雰囲気]といったポイントではなく、その前にその医院が間違った工夫をしていないか判断できるかというものでした。
そしてもし、歯医者さんでそのようなことに遭遇してしまった場合、
「汚い、やめてくれー、菌がうつるー」の前に
一旦落ち着きましょう。
お気持ちはわかりますが一呼吸。
大抵の場合、滅菌などの感染対策については
・知っているけどできていない
・知っているからやっているか
のどちらかです。
(ご年配の歯医者さんで新たな情報が入っていないと知らないからやっていないということもまれにあるかもしれませんが…。)
その場合患者さんから「滅菌てどうしてますか?」と聞かれると
出来ていなければ後ろめたいので、あまりいいリアクションは期待できないと思いますが、やっているのであればよくぞ聞いてくれたとばかりに目を輝かせて自慢げに語り出すことでしょう。
それがやっているかやっていないかを見極める一番のポイントになるかもしれません。
お伝えしたようにこの感染対策はお金と時間がかかります。
そのため『明日から変えます』とはいかないのが現実です。
みなさんが歯科医院を選ぶにあたって、「そんなこともあるんだー」と知っていただいた上でどう選ぶかはご自身でご判断いただければと思います。
「優しくて上手だから滅菌は別に気にしないよ!」というのであればそれも一つです。
ただ、からだの健康の大切なことなので知っていてほしいことであったというお話でした。
ご覧いただきありがとうございました。
次回のホケン物語は時代は流れてどう変わっていくかについてお話します。