歯医者さんでレシートもらいますか?
こんにちは、覆面歯科医です。
前回は日本における歯科の保険診療について歯医者さんがどう頑張っているかについてのお話をしました。
歯医者さんは限られた条件の中でいろいろと工夫をして何とかいい医療を提供しようと頑張っています。
そして皆さんにはそんな歯科医院の中から自分に合った歯医者さんを探し、選んでいただきたいのですが中には違った方向で工夫をしてしまう歯医者さんがあるのも事実です。
今回は保険の請求についてお伝えしたいと思います。
ホケン物語 第3章 そんなの食べてないよ!
ある小さな貧しい国で始まったホケンという制度。
この国では決められた内容のお食事を決められた料金で提供し、一部を国が負担することで国民の誰もが食べることに困らないようになりました。
お店もさまざまな努力をして限られた条件の中でよりよい食事を提供しようと頑張っています。
ある日、お店で食事を終えた5人組がお会計をしていました。
「お会計は450円です。」
「はい」
「ちょうどお預かりします。こちら領収書です。」
お店から領収書をもらうとそこには合計金額の450円とだけ書いてありました。
みんなで割り勘をしようと考えていたので支払った人は
「食事の料金の内訳を知りたいので明細がわかるレシートをいただけますか?」
と言うと
「申し訳ありません。領収書はお渡ししておりますが明細書はお渡ししていないんです。」
という答えが返ってきました。
その後、お店を出てグループは支払った人に各自お金を払いました。カレーライスを食べた2人は一人60円、焼き魚定食を食べた3人のうち2人は一人90円。
「あれ、みんなで390円だね。お会計450円だったよ。」
お店に戻り、レジの人に
「先ほど450円払いましたが390円ではないですか?やっぱり明細見せてください。」
「少々お待ちください。カレーライス2つ、焼き魚定食3つ、あとサラダが5つですね。」
「サラダ?食べてないです。サラダ頼んでないです。」
「申し訳ありません。店長に確認してきます。」
「お待たせしました。
カレーライスについていた福神漬けと焼き魚定食についていたお漬物の小鉢がこちらのサラダとなっています。」
「えー、そんなことあるんですか。
注文もしていないのに付いてきて、それも請求があるなんて...。」
その日はひとまず帰りましたが、納得のいかなかった一人は役所の相談窓口へ行き、詳しくお話しました。
そのお店の同じような相談が他のお客さんからも来ているということで役所の人がお店に確認に行くと、実はこのお店は注文していない食事を出したことにして請求していたことがわかったのです。
店主は
「ごめんなさい。
利益を出すためにやってしまいました。
お客さんは3割のお支払いだったので、いいかなと思ってしまいました。」
と話していました。
その後このお店はホケンの食事を提供することを国から認められなくなってしまいました。
そして、今度はまた別のお店でも何かあったようです。
続く
あとがき
皆さんは普段生活の中で“お金を支払う”ということをすると“確かにお金を受け取りました”という領収書と“こんなものを買いました、またはこんなサービスを受けました”という明細書を受け取ると思います。
その両方が1枚にまとまったレシートであることもあります。
(中には高級なお寿司屋さんでの食事のときに合計金額だけ書いた伝票が運ばれてきてドキドキしてしまうこともありますが、)
多くの場合は領収書と明細書で確認できるようになっています。
皆さんは食べてない、飲んでないものが請求に含まれていたらどう思いますか?
7割引きのセール品だから余分に請求してもいいか、とはなりませんよね。
不正請求とは
さて、今回は日本の保険診療における不正請求の問題です。
「そんなことあるんですか?」
残念ながらあるんです。
詳しくお話していきましょう。
不正請求には『架空請求』と『付増請求』とありまして、
架空請求とは…実際には行っていない保険診療を行ったものとして診療報酬を不正に請求していたこと。
付増請求とは…実際に行った保険診療に行っていない保険診療を付け増して、診療報酬を不正に請求していたこと。
患者さんは来ていないのに来ていたかのように請求することが架空請求、
実際に来た患者さんにやっていない治療費を請求することが付増請求となります。
物語の場合は付増請求となります。
日本の保険診療における領収証と明細書
物語では合計金額の領収書だけを出して明細書を発行していないという部分がありましたが歯科の保険治療については明細書を発行していないこと自体が悪いことにはなりません。
平成30年4月からは保険医療機関である歯科医院は領収証の交付が義務付けられており、保険診療の請求を電子請求(インターネットによるオンラインの請求方法)が義務付けられた医院は明細書を無償で発行しなければならないとあります。(明細発行機能がないコンピュータの使用や一部自動入金機の場合はこの対象にはならないこともあります。)
簡単に言うと最近は領収証だけでなく明細書も発行するようにしていきましょうという流れになっています。
歯医者さんにかかられたことのある方はご存知かもしれませんが歯医者さんの領収証は
こんな感じのものです。(厚生労働省保険局による参考資料を引用)
保険に(点)とありますが1点10円として計算しているので要するにそれぞれにかかっている金額です。
そして明細書は
こんな感じのものです。(厚生労働省保険局による参考資料を引用)
はっきり言ってよくわからないと思います。
これでも以前に比べるとだいぶわかりやすい言葉が使われるようになっているのですがそれでも多くの方は書いてあることと治療の中で行った検査や処置とを明細で比較してどれがどのことを指しているかわからないと思います。
部(基本料、医学管理、検査等)、項目(歯科初診料、歯科疾患管理料、歯周基本検査20歯~など)といってもなんのこっちゃですよね。
物語での話で例えると
カレーライス:20点(200円のこと)
とは書いておらず。
入店料:5点、仕込料:5点、材料I:6点、材料Ⅱ:3点、盛付量:1点
的な感じで細かく分けられているようなイメージです。
わかりにくいからバレにくい、
バレにくいからやっちゃおう、
こんな構図もあるのかもしれません。
それでもお役所としてはなるべく情報をオープンにして透明性を上げていきましょうということで明細書の提供を促しているのだと思います。
この歯科の保険診療点数の詳細についてはまた別の機会にお話ししたいと思います。
あれ、おかしいなと思ったら
前述しましたように保険請求においては複雑でわかりにくいものです。
そんな中でも領収証と明細書はよく確認するよう心がけましょう。
そしてその内容で、もしわからなければ「これなんですか?」と歯医者さんの受付で聞いてみましょう。
保険請求は複雑なので受付の方もわからないといったことも多々あります。
しかし、わからなければ歯科医師に聞いてくれるはずです。
そして先生の説明を聞きましょう。
治療で忙しいときは対応が難しいこともあるので後日でも良いと伝えてあげるとより親切です。
説明を聞いて納得できるものであればそれで良しです。
納得できない場合はその旨をもう一度歯医者さんにお伝えするといいのですが、
「あまりしつこく聞いて歯医者さんに嫌われるのは避けたいな。」
という場合は、市区町村の役所にある「医療相談窓口」「医療安全相談センター」「医療安全支援センター」名前は色々ありますがそちらで相談に乗ってもらえます。
歯医者さんは患者さんにとって保険請求の点数がわかりにくいことであることは百も承知です。
ですからそのような質問にもきちんと対応してくれるかということもいい歯医者さんのポイントの一つとも言えます。
不正請求にあわないためのポイント
・歯医者さんでは領収証、そしてもらえるようであれば明細書を必ずもらう
・心当たりのない検査や処置などがあれば確認する
ここでは付増請求についてのポイントをあげましたが残念ながら架空請求について患者さんができることは年単位でまとめて送られてくる保険医療機関の受診歴で受診していない日に受診したことになっていないかを確認することでできます。
まとめ
いい歯医者さんを探すにあたって、[設備や環境]、[治療]、[サービス]、[雰囲気]等々、選ぶポイントは色々ありますがまずはその前にその医院が間違った工夫をしていないか判断できるといいと思います。
そしてもし、歯医者さんでそのようなことに遭遇してしまった場合、
「ぼったくりだー、金返せー!」 の前に一旦落ち着きましょう。
お気持ちはわかりますが一呼吸。
悪気がない間違えや保険の特性上仕方のないことであったりもします。
せっかくあなたが自分に合った歯科医院として見つけて通院したのですからバッサリと切るのは勿体ないかもしれません。
まずは間違いを指摘して、訂正してもらいましょう。
そうすることで医院は少なくともあなたへ同じ過ちはしなくなるでしょうし、それをきっかけにあなたがその医院をクリーンな医院へ変えることができるかもしれません。
皆さんは歯医者さんを良くする力を持っているのです。
ですからまずは大人な対応で改善を望みましょう。
それでも変わらなければ…、悪いことは長くはできない世の中です。
ご参考に平成30年10月の出来事です。
https://www.sankei.com/affairs/news/181022/afr1810220043-n1.html
これは赤信号みんなで渡れば怖くないといった中で、トラック100キロ走行で赤信号渡ってしまったクラスのものです。
ただ、小さくたって違反は違反。
横断歩道で歩いての信号無視でも赤信号は赤信号です。
ご覧いただきありがとうございました。
次回もホケン物語で、歯科の資格についてお伝えしたいと思います。