覆面歯科医がこっそり伝える「歯医者さんの選び方」

~あなたに合った歯医者さん探しをお手伝いするブログ~

保険の治療で白い詰め物をしてもらえるのはお得なこと?

 

f:id:Fukumen-Dentist:20190313022106p:plain

 

こんにちは、覆面歯科医です。

前回まではこのブログのテーマである「歯医者さん選び」について、そのベースとなる現在の歯科医院や検索サイトの実態、日本の保険診療についてお伝えしてきました。

そして、いよいよ今回からはいい歯医者さん選びについてさまざまなテーマで書いていきたいと思います。

 

1回となる今回、どのようなテーマにするか悩みましたが歯医者と言えばむし歯治療とイメージする方も多いかと思い、そして私たち歯医者の中では今話題となっている材料価格の高騰についても触れようと『むし歯の詰め物治療』からいい歯医者の選び方についてお伝えしていきたいと思います。

 

詰め物でいい治療、悪い治療。白い詰め物、金属の詰め物。

 

皆さんが普段知ることのない話も交えながらこれらの治療内容、材料について説明し、どんな歯医者さんを選ぶかご参考にしていただければと思います。

 

詰め物治療の種類

むし歯になったらむし歯になった部分、実際にはむし歯の原因菌が感染し、その菌が出す酸により溶かされた歯の質を削って取り除くことが必要です。

削った歯は一部が失われた状態になっているため、元の歯の形に近づけるために詰め物で形作る必要があります。

 

これが私たち歯医者のいう詰め物の治療です。

 

詰め物の治療には口の中で削ったところに直接材料を詰める『直接法』と型を取るなどして口の外で詰め物を作り、それを歯につける『間接法』があります。間接法で作る詰め物は『インレー』と呼ばれます。

 

詰め物治療に使われる材料

直接法に使われる材料はペースト状のものが特殊な光によって硬く固まる『レジン』と言われるプラスチックの材料と『ハイブリッドレジン』と言われるセラミックが含まれたプラスチックの材料が使用されます。

いずれも歯に直接盛り付けて形を整え、特殊な光を当てて固める方法です。

保険ではコンポジットレジンと言われる材料が一般的で、セラミックが含まれたハイブリッドレジンは保険では使用することができません。

 

一方、間接法に使われる材料で代表的なものは『金属』と『セラミック』です。

保険で使用できる金属は『金銀パラジウム合金』といういくつかの金属を混ぜ合わせて作られた合金と『銀合金』で他に金属では『金合金』『白金合金』などもありますが保険では使用することができません。

また、セラミックなど歯に近い色の材料の詰め物は保険では使用することができません。

(レジンインレーという先ほど直接法にも出てきたプラスチックで作るインレーは保険で認められていますが割れやすいなど強度的な問題であまり使われることはありません。)

 

f:id:Fukumen-Dentist:20190313024342j:plain

 

金銀パラジウム合金の価格変動

私たち歯医者は「パラジウム」という金属を身近なものとしてよく耳にしますが皆さんはあまりなじみのない金属かと思います。

もともと歯の治療には金が使用されていましたが地金の不足から歯科治療における金の代用品として1934年(昭和14年)にパラジウム合金の使用が認可されたそうです。

今から85年も前に認可された、しかも金の代わりとして安さを理由に使われ始めた金属が現代でもまだ日本の歯科治療のスタンダードに根付いていることにも驚きです。

さて、このパラジウム、安さが売りで国の歯科医療費を抑えることを目的として使われてきましたが、近年様相が変わってきました。

 

過去15年間の『金』と『パラジウム』の小売相場価格を比較してみますと1g当たりの価格は下の表の通りです。(フジデンタル株式会社HPより価格引用)

 

f:id:Fukumen-Dentist:20190313022011j:plain

 

 

金が不足して高価だからその代用として使うことになったパラジウム。

値段が高騰して今年金より高くなっちゃいました。

今年20193月には金1g 5062円、パラジウム1g 6075円です。

 

先ほども書いたように歯の治療で使われる金属は金や銀、パラジウムなどが混ざった合金ですのでパラジウム単体ではないのですがそれでもこの高騰の影響は受けています。

 

歯科で取り扱うパラジウム合金にはメーカーなど様々ありますがその中の一つ『ジーシーキャストウェル(12%金銀パラジウム)』を例にこちらの相場を示します。(見つかったのが買取価格の相場でしたので小売価格の相場よりやや低くなっております。)(フジデンタル株式会社HPより価格引用)

 

 

f:id:Fukumen-Dentist:20190313022029j:plain

 

ぐんぐん上がって、直近で歯科材料業者へ問い合わせたところ30gで税込み58320円とのことでした。1g 2,000です。15年前には1g 350ほどでした。

 

金銀パラジウム合金と歯科保険診療

以前もお話しましたが保険診療は治療費が一律で決まっていて2年に一度改定があり、各年で細かな改定があります。

さらに、このような金属の価格変動が影響する詰め物や被せ物治療の保険点数は6か月毎に見直されます。

そして、この高騰に合わせて4月から保険の改定があるかと思いきや、保険点数(つまり、治療費)が上がることはなく据え置きでした。

 

どのようなことかと言いますと金属の詰め物の治療として私たち歯医者は

  • 詰め物を入れる形に削る(1200円)
  • 型を取る(640円)
  • 咬み合わせの記録を取る(180円)
  • 詰め物代(詰める範囲により3,650円/6080円)
  • つける(450円)
  • 接着剤料(170円)

 

とざっとこんな感じの保険治療費となります。

詰め物の覆う範囲によりますがトータル6,290円/8,720となります。

 

そして6,290円の治療費のうち詰め物の金属1gとして約2,000円、詰め物を作ってもらう技工代が約1,000円として詰め物を作るのにかかる金額は約3,000

原価率約50%です。

8,720円の治療費でも金属は1.5gとして技工料と合わせて4,200

これも原価率約50%

そしてこの治療は30分の治療を2日かけて行うとして60分。治療には歯科助手さんのサポートが必要となると時給1,000円分がそのまま捻出、その他もろもろ経費も含めこの治療をすることによる利益はなく、赤字にすらなりかねません。

 

「え、そんな原価率の高い治療が受けられてお得だ!ラッキー」と思われた方、単にうれしいことだけではありません。

 

歯医者さんの工夫

皆さんがお店を経営するとして、利益がでない、または赤字になる商品があった場合どのように考えるでしょうか。

答えは簡単で、『そんな商品をお店に置かない』です。

これは今後歯医者さんでも同じことが起こるのではないかと考えています。

どういうことかというと、保険で金属を使用した治療を避けるようになるということです。

 

先にもお話したむし歯治療の『直接法』や『間接法』について、どの方法で治療をするかは歯医者さん次第であるとも言えます。

簡単な考え方としては小さなむし歯ほど直接法で治しやすくむし歯が大きくなるほどに直接法で治すことが難しいため間接法で治療するというものです。

医学的に根拠があるものとしてはむし歯治療などで歯を残すことを主とする『日本歯科保存学会』という学会が過去の研究から「こんなむし歯治療はこうしたほうがよいでしょう」という内容が記された『う蝕治療ガイドライン』に沿って考えたりもします。

 

金属が高騰すると歯医者さんの頭の中ではこんな感じになります。

 

むし歯を削る

  ↓

むし歯が大きかったな。これはインレーで間接的に治療したほうが良いケースだ。

  ↓

セラミックでできればそうしたいのだけど患者さんは保険治療を希望しているし。

  ↓

保険だと金属か。赤字になるな。どうしよう…。

 

そしてここから先はホケン物語でも出てきたように様々な工夫が飛び出します。

①    赤字だけどやっぱり金属の詰め物で治療しよう
②    もう一度セラミックなどの治療にしないか相談してみよう
③    ここは保険の直接法で治療を行おう
④    (歯によっては保険で白い被せ物を入れられることがあるので)白い被せ物にしよう
⑤    保険では金銀パラジウム合金と請求して実際には銀合金で作って入れよう(誤った工夫)
⑥    詰め物の治療だけど被せ物の治療したことにして請求しよう(誤った工夫)

 

それぞれの工夫について解説しましょう。

①    赤字だけどやっぱり金属の詰め物で治療しよう

 当たり前のようですがすべての歯医者さんがこれを行えないほど今の材料費の高騰は深刻な状況です。

 

②    もう一度セラミックなどの治療にしないか相談してみよう

 患者さんとしては自費を勧めてくることをよしとしない方もいらっしゃると思いますが、患者さんも納得した上であれば良い結果になると思います。

 

③    ここは保険の直接法で治療を行おう

 「保険で白く治してもらった」と喜ばしく思う方が多いと思いますが、意外な落とし穴があるかもしれません。

この方法が悪いということではなく、実際直接法で本物の歯と見間違うかのような治療を行う先生もいらっしゃいます。

ただ、一般的には隣の歯に接している部分が大きく失われた状態を直接治すのはとても高い技術が必要です。また、広い範囲をこの方法で治療すると光で固める際に材料が縮まり、隙間ができることもあります。詰め方が良くないことで汚れが付きやすくなり、治療したところが再びむし歯になる可能性が高くなるというリスクがあります。

5年ほどたった頃、無理をして入れたことで再治療が必要となるレジンの詰め物をした歯がたくさん出てこないことを願っています。

 

④    (歯によっては保険で白い被せ物を入れられることがあるので)白い被せ物にしよう

 こちらの治療は保険診療で前から4・5番目の歯(条件により6番目の歯も含まれる)に被せるCADCAM冠という方法で、金属を使わないため金属の詰め物治療と比べると利益が出る治療です。

これも保険で白くしてもらったと喜ばしく思うかもしれませんが、むし歯治療を行う原則として『健康な歯はなるべく削らずに残す』という考えがあります。

本来詰め物で治療できる歯を被せ物にするということは健康で残せる部分も削らなくてはならないということです。

治療により削る歯は必要最小限であることが望ましいのです。

 

⑤    保険では金銀パラジウム合金と請求して実際には銀合金で作って入れよう(誤った工夫)

 これは不正請求ですのでアウトです。ただ、銀合金で詰め物を作ること自体は何ら問題ありません。患者さんに銀合金を使うことを説明し、患者さんもそれに納得し、保険の請求も銀合金であれば問題なしの工夫です。

銀合金は口の中の環境ではすぐに黒くなるので金銀パラジウム合金と見分けやすいと思います。

 

⑥    詰め物の治療だけど被せ物の治療したことにして請求しよう(誤った工夫)

 同じ保険診療でも詰め物より被せ物のほうが請求できる治療費が高いので不正に請求を行って、利益を上げようとする不正な方法です。

 

 

いかがでしたでしょうか。皆さんならどの方法で治療を受けたいですか。

これらのことについて知っているというだけでも自分に合った治療の方法を選ぶことができるかどうかが変わってくると思います。

 

まとめ

お読みいただきありがとうございました。

今回は詰め物の治療について保険診療で使われている材料の視点も含めてお伝えしました。

保険診療を行う以上、私たち歯医者は与えられた条件の中でいかに良い治療を提供できるかが勝負となっているのです。

材料の高騰により歯医者さんは苦境に立たされていますが、皆さんも自分が受ける治療についてある程度知識をつけることで自分の歯を良い状態にし、守ることができるのです。治療方法については歯医者さんとよく相談し、最も自分に合ったものを選べることが理想ですね。

 

今回のブログをお読みいただき、「保険で白く治療してもらえてラッキー」だけではなく、本当に自分に必要な治療は何かを考えていただくきっかけになれば幸いです。