覆面歯科医がこっそり伝える「歯医者さんの選び方」

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痛くない歯医者さんは上手な歯医者さん?

  

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こんにちは、覆面歯科医です。

いい歯医者さんを選ぶ基準の一つとして歯医者さんの腕が良いかということがあると思います。

 

私は日頃歯科関係のお仕事ではない方とお話をするときに

「どのような歯医者さんが上手な歯医者さんだと思いますか?」

という質問をすると

「治療が痛くない歯医者さん」

という答えの方が多くいらっしゃいます。

 

確かに痛みを伴うことが多い歯医者さんでの治療において痛みがないというのは大変喜ばしいことだと思います。

特にむし歯で歯を削るときは歯の神経が感じる痛みであるため、とても強い痛みを伴うこともあります。

 

そこで今回は治療での痛みと上手な歯医者さんの関係についてお伝えしていきたいと思います。

 

痛みの出どころによる違い

歯医者さんで治療を行う際に感じる痛みにはどのようなものがあるでしょうか。

「歯の治療の痛みだから痛いのは歯でしょ。」

確かそうですが痛みを感じている部分もいくつかに分けることができます。

 

①歯の内部にある神経が感じている痛み

 硬い歯の内部には歯髄といわれる歯の神経や血管があり、その神経に刺激が伝わることにより痛みを感じることがあります(図の赤い部分)。

刺激は触る(擦る)、熱い、冷たいといったものが一定以上の度合いになると体にとって危険な刺激と判断されて痛いと感じるようになっています。

また、神経が刺激に対して敏感になっている場合には通常痛みとして感じないほどの刺激でもしみる、または痛いと感じることがあります。

 

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②歯の周りの歯ぐきが感じている痛み

 歯の周りには歯肉といわれる柔らかい部分があります。いわゆる歯ぐきです。

この部分は先の尖ったものなどで触ると痛みを感じることがあります。

これは『歯が痛い』というよりは『歯ぐきが痛い』という表現が正しいと言えます。

火傷するほどに熱いものが触れれば当然痛みを感じますがそうでない場合は水や風をかけるといったことでは痛みを感じることはありません。

 

③歯を支えている骨などが感じている痛み

 歯の根っこは歯槽骨といわれる骨と靭帯によって支えられています。

この歯根の周りにある靭帯や骨を切る、引っ張るといったことをすることで痛みを感じます。

 

④唇や口の角を引っ張る痛み

 唇や口の角は柔らかいためある程度引っ張っても痛みを感じることはありませんが強く引っ張ることによって痛みとして感じることがあります。

 

これらの痛みについて歯医者さんでのどのような治療と関連しているか説明します。

 

痛みを感じる部分で分ける治療内容

①歯の神経が痛みを感じる治療

1)神経がある歯を削る治療

神経まで多少距離があっても削る摩擦や熱により痛みを感じます。

もちろん神経に直接触れると極めて強い痛みを感じます。

 例:むし歯を削る治療、むし歯などで歯の内部(神経)を触る治療

 

2)水や風をかける治療

歯の神経は冷たい・熱いといった温度の変化も感じることができますがその刺激が強いことで痛みとして感じます。

詰め物をつける前に水や風をかけるとしみる、または痛いと感じるのはこのためです。

また、先にも書きました神経が受ける刺激に対して敏感になっている状態(知覚過敏)では健康な状態と比べて、より少ない刺激でしみる、または痛いと感じることがあります。

 例:原因の歯を探る検査、詰め物をする前処理

 

②歯ぐきが痛みを感じる治療

1)歯の汚れを取る治療

電動で回転するブラシを使って歯の表面の清掃を行う際に歯ぐきをブラシで擦ることで痛みを感じることがあります。

 例:歯面の清掃(クリーニング)

 

2)浅い部分の歯石を取る治療

歯ぐきの縁よりも上にある見えやすい部分についた歯石を取る治療を行う場合はお水を出しながら細かな振動(超音波振動)によって汚れをはがし取るか先の細い道具を使用して手作業で歯石を取り除きます。

これが歯ぐきに当たる場合に痛みを感じることがあります。

 例:歯石の除去

 

3)深い部分の歯石を取る治療

歯ぐきの縁と歯との間には歯周ポケットといわれる溝があり、その歯周ポケット内で歯の根っこ(歯根)の表面についた歯石を取り除き、歯根の表面の汚れを落としながらきれいに整える治療は歯ぐきに痛みを感じることがあります。

 例:深くを探る歯石の除去

 

③歯を支えている骨などが痛みを感じる治療

1)歯を抜く治療

歯を抜く治療は歯根とそれを支える周囲の骨が離れる際に間にある靭帯も切断されているため、痛みを感じます。当然歯を抜く際には麻酔をして行います。

 例:抜歯治療

 

④その他治療で感じる痛み

1)器具や指で口を引っ張りながら行う治療

奥歯の治療やお口が大きく開きにくい方の治療を行う場合、治療部分をよく見る・頬や舌に器具が当たらないようにする・乾燥した状態を保つといった目的のために唇や口の角を引っ張りながら治療を行うことがあります。この際引っ張る強さによっては痛みを感じることがあります。

 例:口の中に器具を入れる検査や治療全般

 

痛みを感じなくする方法

歯の神経の痛み、歯ぐきが感じる痛み、歯を支えている骨などが感じる痛みについては麻酔を行うことで痛みの感覚を麻痺させて痛みを感じなくすることができます。

ですから痛くない治療が麻酔によるものであれば腕の良しあしに関わらず痛みは感じないということになります。

極端な言い方にはなりますが麻酔をして、それが効いていれば皆上手な歯医者となってしまいます。

歯医者としては麻酔さえしっかりすれば治療が上手と思っていただけるのであればこんなに簡単なことはありませんがそれだけでは芸がありません。

では痛みを感じないことと上手かということに関係がないかというと麻酔に対してやその他については上手な歯医者さんと言えることはあるのでご紹介します。

みなさんがあまり気が付かないポイントをこっそりお伝えします。

 

①麻酔の痛み

 痛みを取るためにする麻酔ですが、歯ぐきに注射をするので麻酔自体も痛いと言えます。

その麻酔の痛みを和らげる方法として

 

・表面麻酔を使用する

・注射の針を刺すところ、角度、麻酔の薬を入れる量や速さ、圧といったことに注意する

 

ということで麻酔そのものに痛みを感じにくくするということができます。

電動の注射器(下のようなもの)を使用するのもそのような効果を自動で行うことが目的であったりします。

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ということで麻酔が痛くない歯医者さんは麻酔が上手な歯医者さんであったり、患者さんの痛みに対して配慮のある歯医者さんであるということは言えます。

麻酔もなくて痛みもなくてという場合は上手な歯医者さんということが言えるかと思います。

 

余談になりますが麻酔の治療費はいくらかと聞かれることがありますが、一般的な浸潤麻酔というものは380円、そして麻酔が必要となる治療の多くは治療費の中に麻酔代も含まれており、麻酔をしてもしなくても治療費が変わらないものがほとんどです。したがって、麻酔をすることで歯医者さんに利益が出ることはなく、むしろ麻酔をしないほうが利益となることが多いのです。

 

②歯ぐきの痛み

 歯の歯石を取るときにも歯ぐきに器具が触れて痛いということもあります。

「あの衛生士さんのお掃除は痛いわ」と思ったり、思わなかったり。

この痛みは一つは歯科医師や歯科衛生士の技術的な問題、もう一つは患者さんの歯ぐきの状態による問題があります。

 

技術的な問題は歯ぐきになるべく触らないようにお掃除を行うことができれば防ぐことができますが、患者さんの歯ぐきが赤く腫れているような状態では少し触れただけでも痛いと感じることがあります。

歯科衛生士さんがその状態を治そうと必死にお掃除するあまり出てしまう痛みであることがあるので、この場合はまず歯ぐきの腫れが引くまでブラッシングで状態を良くするということが必要になります。

 

歯医者側から考える上手な歯医者さん

歯を削る治療を例にとると、まずは麻酔をする必要があるか無いかの判断がしっかりできること良い診断ができている歯医者さんと言えます。

 

なんでもかんでも麻酔をすればいいというものでもなく、麻酔も薬。体に入ることで痛みを麻痺させる以外の影響があります。

これは麻酔に限らず体に入る薬全般で言えることですが必要最低限に使用するということがとても大切です。

 

また、歯を削る道具や機械、切れ味の良い道具を使ってよく削れる機械を使用する

患者さんには全く伝わりませんがそんなことでも痛みを感じにくくする、また後から痛みが出にくくするといった効果があります。

 

歯ぐきに痛みを感じる治療については技術的な部分で痛みを出さないということもとても大切ですが、歯石を取る治療で歯ぐきが赤く腫れた状態のときには普通に治療をしても痛みを感じやすい状態になっています。

そのため腫れが収まった状態で治療を行う必要があります。

そんな時、歯医者さんとしては歯石を取る前に適切な歯磨き方法をアドバイスして、日ごろのブラッシングで歯ぐきの腫れを取ってから歯石の除去を行うのが医学的な面からは正しい方法と言えます。

患者さんからすると

「せっかく歯医者へ来てるのに治療しないで歯磨き指導だなんて、

何なんだこの歯医者は。」

というお気持ちになるのはよくわかりますが実はそのほうが良い治療であると言えるのです。

 

そしてあまり触れていなかった唇や頬を引っ張るなどが痛いと感じることについて。

私たち歯医者は左手にはデンタルミラーと言われる小さな鏡を持っていることがほとんどです。

それを体の一部のように使えるようになるには経験や技術が必要です。

そして頬を引っ張るなど細部に気を使えるかということはホスピタリティにもつながるので“慣れた歯医者さん”“細かな気遣いのある歯医者さん”を見分けるポイントになるかもしれません。

 

まとめ

歯医者さんは多くの場合、『患者さんは少しでも痛い思いをしないほうが良い』という考えでいることが多いので少しでも痛みの出る可能性がある場合などは麻酔を行うことが多いと思います。

 

そこで患者さんとしては

 

・何が何でも痛いと感じたくない

・多少我慢してできるくらいであれば痛みは我慢する

・痛みよりも麻酔で感覚がないほうがよほど嫌だ。

 

このうち自分はどれに当てはまるかを考えて、歯医者さんにそれを伝えておくとよいでしょう。

 

余分な麻酔をするのも、されるのも防ぐことができ、多少痛みがあっても相談の上決めていったのであれば

『痛い=上手じゃない』

とはならずに良い関係を築けるのではないでしょうか。

 

もちろん痛みがないに越したことはありませんが、それだけではない “通” なポイントで歯医者さんとやり取りをして治療の内容をカスタマイズしてみるのも歯医者さんと上手に付き合う方法としておすすめです。

 

治療が痛くない歯医者さんは上手な歯医者さん…であることもそうでないこともある。

 

結局結論を出すことはできませんが、痛みだけにとらわれると『どんな治療でも麻酔を』ということになってしまいます。

 

歯医者さんと患者さんとでしっかりとコミュニケーションを取って、痛くない治療を目指しながらも安全かつ、過剰な治療が無いことがお互いにとって最も良い結果を生むと思います。

 

 

今回もお読みいただきありがとうございます。

次回もまたいい歯医者さんを選ぶポイントをお伝えしたいと思います。

お読みいただいて「こんな歯医者さんはいい歯医者さん?」というご質問もありましたらそちらについてもブログで取り上げさせていただきたいと思いますので、コメントお願いします。